10年以上経った過払い金の請求が認められるケースはあるのか?

代表弁護士 石川 智美 (いしかわ ともみ)

「過払い金は10年経つと請求できなくなる」などという話を聞かれたことがある方は多いと思います。 たしかに,過払い金の返還請求権は,時効によって消滅してしまうことがあります。簡単にいうと,取引終了時から10年以上経過した場合です。 もっとも,...

「過払い金は10年経つと請求できなくなる」などという話を聞かれたことがある方は多いと思います。

たしかに,過払い金の返還請求権は,時効によって消滅してしまうことがあります。簡単にいうと,取引終了時から10年以上経過した場合です。
もっとも,この10年をいつから数え始めるのかという点は,単純な問題ではありません。

また,例外的に,10年以上前に完済して通常の過払い金返還請求権が時効にかかっていても,貸金業者への請求が認められるケースもあります。

この記事では,過払い金返還請求権の時効について,特に,10年以上前に完済したケースを取り上げて解説していきます。

過払い金の時効とは?

過払い金返還請求権は,10年で時効によって消滅します(民法167条)。

そして,いつから数えて10年なのかについては,いくつかの考え方がありますが,現在では,一般的に,「取引の終了時」であると考えられています。この時効期間を数え始める時点のことを,「時効の起算点」といいます。

また,「取引の終了時」というのは具体的にはいつなのかですが,この点についても,いくつかの考え方はありますが,「完済したとき」とされることがほとんどです。

10年以上前に完済していても過払い金の請求ができるケースとは?

一連計算ができる場合

このように,過払い金返還請求権は,完済したときから10年以上経過すると,時効消滅してしまうのが通常です。

ところが,10年以上前に一度完済していても,その後同じ業者から借り入れを再開した場合には,消滅時効が完成していないとの主張が認められるケースがあります。

たしかに,10年以上前に完済した取引と,その後の取引を別々のものとみると,前の取引については,すでに時効が成立しているということになります。このような見方を,取引が「分断」しているなどといいます。

しかし,場合によっては,前の取引とその後の取引が1つの契約として扱われることもあります。そうすると,時効の起算点である取引の終了時は,後の取引の完済時点ということになります。つまり,前の完済から10年以上経過していても,最終的な完済時点から10年間が経過していなければ,前の取引の分まで含めて過払い金を請求することができるのです。このように,一旦完済していても,その前後の取引を1つの契約として扱うことを,「一連計算」などといいます。

それでは,この「分断」か「一連」かは,どのようにして決まるのでしょうか?

この点,裁判例は,2つの契約の内容や,契約書がどのように作成されているか,また,前後の取引の間隔の長さなどの様々な事情を考慮して,個別具体的に判断しています。何カ月のブランクであれば一連だなどといった明確な基準があるわけではありませんので,具体的には,弁護士にご相談ください。

時効の中断がある場合

消滅時効の進行は,「請求」を行うことによってストップさせることが認められています。これを,「時効の中断」といいます。

過払い金返還請求の時効を中断するためには,裁判上の請求が必要となります。裁判上の請求とは,裁判所を介して行う請求のことで,民事訴訟の提起,支払督促の申立て,民事調停の申立てがあります。

なお,裁判以外での請求を行うと,6ヶ月間,時効期間が延長されます。6カ月の間に,裁判上の請求を行うことで,消滅時効の成立を防ぐことができます。裁判外の請求は,どのような方法でもよいのですが,請求したことを証拠に残しておくためには,内容証明郵便を用いる必要があります。

不法行為がある場合

最後に完済したときから10年以上経っている場合には,先ほどの中断事由がなければ,過払い金返還請求権は時効にかかっています。

しかし,この場合でも,不法行為に基づく請求ができる可能性は残されています。不法行為とは,簡単にいうと,故意や過失によって,被害者に損害を発生させる行為です。交通事故によって相手方に怪我をさせる,人を殴ってけがをさせるなどがその典型です。

過払い金請求の場面では,貸金業者が法律の上限を超えた利息を受け取り続けたことが不法行為に当たらないかが問題となります。この点,裁判例には,単に利息を取りすぎただけで不法行為には当たらないが,暴行や脅迫等を伴うような請求であったり,貸金業者が法律的根拠を欠く請求であることを知りながらその請求をしたりなど,貸金業者の行為の態様が社会的通念に照らして著しく相当性を欠く場合には不法行為に当たるなどと判断したものがあります。

不法行為の時効期間は,損害及び加害者を知ったときから3年です。そのため完済から10年以上経過していても,取引履歴の開示を受けたときから3年以内であれば,時効にかかっていないといえるのです。

もっとも,不法行為に当たると認められるケースはまれですし,その判断,そして主張・立証は非常に困難です。ですから,不法行為の主張を行う場合には,弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

過払い金の時効については弁護士にご相談ください

以上のように,過払い金返還請求権が時効によって請求できなくなっているかどうかは,単純に決まるものではありません。その判断には,専門的な知識が必要となることがあるのです。

また,同じ事情であっても,適切な主張・立証を行うことができるかどうかで,結果が変わってくるケースもあります。
ですから,時効によって取り戻せたはずの過払い金を取り戻せなくなってしまう前に,できるだけお早めに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。